土曜日、大学生の愚息から、来週、大学(理系)の実習の発表があって、今準備に追われているというと聞かされた。ずっとサボっている本人が悪いのであるが、発表テーマが自由というのも困る。夏休みの自由研究課題を一夜でやった小生の苦労経験と被る。
DNA鑑定をテーマにしてみたとのこと。面白いテーマである。司法も、DNA鑑定の進歩に大きな影響を受けた。今から思えば、精度が完全に信頼に値しないと言う時代に、DNA鑑定が重視され、数々の冤罪が生み出された。DNA鑑定の精度が上がり、近年、数々の無罪判決が出ている。
愚息の話では、今では、少しの皮膚のかけらからでも、十分信頼のおけるDNA鑑定が可能との事。
愚息に幾らDNA鑑定が進んでも、民事の世界では、DNA鑑定の結果が採用されない分野があると話したところ、珍しく、私の話に興味を示した。
「DNA鑑定、そんなの関係ねえ!」分野は、ズバリ親子関係不存在。皆さん、驚かれますよね。一般の人でDNA鑑定依頼する需要があるのは、親子関係の確認ですからね。
実は、私が長年弁護士していて、「私の子供は、実は、夫の子供ではないのです。結婚後も前の彼と付き合ってて…誰の子かは私が一番分かっています」という話は、一度や二度ではありません。
男が自分の子供で無いことに気付いたとき、どうするか。親子関係白黒付けたいと思う心情も分からないではありません。白黒付けたところ黒だったという場合、戸籍から親子関係を解消することはできるのでしょうか。
親子関係を否定する法的方法は、2つあります。
① 嫡出否認の訴え
民法では、婚姻中の妻が子を妊娠した場合、その子は夫の子と推定されます。これを「嫡出の推定」といいます。また、夫が父子関係を否認するためには、子の出生を知った時から1年以内に家庭裁判所に訴えを提起しなければならないとされています。これを「嫡出否認の訴え」といいます。
しかし、生まれて1年など、余程の事が無い限り気付かなく過ぎてしまいます。
② 親子関係不存在の訴え。
この方法は、出訴期間に制限はありません。しかし、この訴えが認められるのは、夫と妻の性交渉が無いことが証明できる場合に限られます。例えば、妊娠時期、刑務所に入っていたとか、夫は、妻妊娠時、アメリカにいて、接触する機会がないことは、ほぼ明らかという場合です(法律的には、そのような子を「嫡出推定の及ばない子)とし、①の範疇から外してしまいます。。
でも、こんな事例は、むしろ特殊な事例で、多くの場合、①の方法で解決できてしまうケースです。
私がよくある結婚生活をしながら他の者の子供を宿すケースには、使えません。
じゃあ、DNA鑑定で99.9%親子関係無いとでていても、法律が親子関係を解消せず、親子関係を強制しろってこと?それってなんかおかしくない?
当然の疑問です。これについて、実務では、智恵を絞り、①の「出生を知ったとき」を「親子関係にないこと(DNA鑑定で黒と知ったとき)に読み替える」という拡張解釈で、親子関係の不存在を認めた下級審判例もありました。
ところが、最高裁(平成26年7月17日)は、はっきりとDNA鑑定で黒だろうが何だろうが知った事じゃない。ダメなものはダメと言い切りました。
理由は、子の身分を巡る法律関係の安定です。ザックと言えば、子供は、生まれた時から誰々さんの子供として、社会に位置づけられていて、子も社会も機能していく、勝手に親子関係変えることはまかりならんと言うことです。もしかしたら、形式の親子関係がどうであろうと、実質関係の親子関係は、別物。親子は親子。形式面を重視する必要はないという考えの上に立っているのかもしれません。
このように、DNA観点の結果は、法律の前では、無意味なこともあるのです。たとえ、黒いカラスといえども、最高裁が、白いといえば、白いカラスなのです(やや、この比喩は、過激ですが…)。
(追伸)
因みに、世の中DNA鑑定の使われ方いろいろあります。女性側からのアプローチで、「私の子供は、あなたの子よ。今夫(金持ち)と別れて、養育費いっぱいもらうつもりでいるから、あなたと結婚しましょう」と、DNA鑑定結果示して、しつこく、10年以上も前の元彼女につきまとわれて困っているというケースもあります。「自分たちの子供の養育に、たっぷり前夫が払ってくれていいでしょ」的な話で、托卵みたいですね(カッコウがウグイスの巣に卵を産み、事情知らないウグイスがカッコウの子を育てるというもの)。