前回、司法試験合格率が30%まで上がり、今の時代は、なんだか楽チンみたいな感じで書いてしまいましたが、実は、法科大学院生は、我々旧試験組とは違うストレスを受けています。
旧試験時代、法律の理解度は、司法試験で選別され、実務的な能力は、その後2年間の司法研修所で実務家教官から徹底的に鍛えられ、最終的に、研修所卒業試験(2回目の司法試験という意味で「2回試験」と呼ばれる)でその習得度が選別されていました。
新司法試験制度になって、法科大学院(ロースクール)ができました。呼び名が長いので、以下「ロー」と省略させて頂きます。新制度の下では、従来研修所でなされていた実務的な学習もローで行われる制度になっています。ローで一部既に履修済みという理由で、司法研修所の研修期間は、2年から1年に変更されました。
この制度は、一見理想的で聞こえはいいですが、学生の身になって考えると大変です。考えてみて下さい。ローを卒業しても司法試験に合格しないと司法研修所に行くことはできません。司法試験合格率が上がったとは言え、30%です。その30%には、既に、ほぼ同じ法律科目をクリアし、実力を既に備えた予備試験組も含まれています。多くのロー生の合格率は、実は、もっと悲惨な合格率です。関西で有名な関関同立のロークラスで、10%~20%程度です。それも、卒業後5回の受験チャンスがありますので、司法浪人組が多数含まれ、初回合格となると更にグッと合格率が下がります。
司法試験合格には大きな壁があるのに、司法試験科目と全く関係ない多数の科目の履修に奔走させられます。本来なら研修所でするべき、弁護士事務所での実務研修や、模擬裁判などのカリキュラムを強要されるわけです。予備校を敵視するお国の方針で、ローの授業では、受験を目的とした授業をしてはなりません。あくまで、ローで司法実務家を養成するという理想のカリキュラムに従わされます。司法試験に向けての本格的受験体制ができるのは、ローを卒業後というのが実際のところではないでしょうか。司法試験科目の勉強をしたいのにできない。相当なストレスとなります。司法試験合格しないといわば浪人なわけで、生活コストと学習エネルギーが1年単位で発生します。高い授業料を親に払ってもらって、やりたい勉強ができないのです。なおかつ、お国は、少しでもローの理想を求めて、厳しくするよう各ローに指導しています。従わないと、ロースクール認可取消や補助金カットの制裁を受けます。ロー生は、留年という恐怖とも戦わなくてはなりません。
我々の時代は、確かに司法試験は難関でしたが、一般にどの法学部もアカデミックでした。単位認定も緩く、卒業論文もないところが殆どでしたので、結構、司法試験科目に集中して勉強をすることができたのです。無論、司法浪人中は、司法試験科目の勉強に集中できます。
今、ロー生に、精神的疾患にかかる人がとても増えているようです。一見、旧試験より随分楽だと思われますが、嫌な事をさせられるという意味で、懲役刑を受けている囚人に似たところがあるのではないでしょうか。我々の時代は、人に何を言われようが、強制された勉強をした覚えがありません。<②に続く>