【事案の概要】

  • 事故時 15才 女子高生
  • 自転車vs普通自動車
  • 信号のない交差点、出会い頭衝突、車側優先道路 横断歩道

夜間、塾の帰りに事故に遭い、一命は取り留めましたが、高次脳機能障害が残ってしまいました。

ただ、この高次脳機能障害は、とても判断が難しい案件でした。退院後、高校復学して、一見すると、普通の明るい女の子なのです。何事も一生懸命します。高次脳機能障害があるなんて思いません。

でも、この何事も一生懸命すること自体が高次脳機能障害でした。

高次脳機能障害は、認知・情緒・行動障害を元に判断していくのですが、その判断の分かれ目は結構微妙です。

彼女は、元々は、勉強はそんなに好きではない、どちらかというとグループダンスが好きな運動系女子でした。親に「早くしないと遅れるよ」と言われる、どちらかというとおてんばなルーズな女の子でした。

事故後、彼女の性格は、一変しました。何事も計画を立て、一度自分の立てた計画は、完全遂行する人になったのです。

こう聞くと、立派になったように聞こえますが、実際は、大変です。友人と出かける予定を一度立てたら、友人から待ち合わせ時間の予定の変更を言われても、変更せず、駅で何時間も待っています。学校の授業も、今まで無かったように、一生懸命授業を聞き、ノートを取ります。しかし、授業の内容は全く頭に入っていません。テスト問題、択一問題、正答率は、5択なら20%、まさしく、鉛筆転がしの格率どおりです。家の中でも常に目的地までまっすぐ歩くので、いつもあちこちぶつけて足は青痣だらけです。

学校の先生も彼女の一生懸命な姿になんとか卒業させてあげようと、試験問題と一言一句全く同じものを試験前に特訓したり、試験に代えてレポートに代えたりして、彼女の卒業に努力してくれ、やっとの思いで卒業が叶いました。

ところが、自賠責は、高校卒業できたことを以て、高次脳機能障害と認めつつも、後遺障害等級は、9級10号となりました。

彼女の高次脳機能障害の特性を私は、柔軟性のあるAIとは対局のプログラミングされたとおりにしか動かない「ロボット」であると表現し、その特徴を示す証拠を示しました。学校の先生の残した記録や、その他生活圏での残されていたロボットの足跡を探り、そのロボット性を示す証拠集めに奔走しました。そのロボット性は、僅かの時間しか一緒にいない病院の医師には分からないことです。一見すると素直ないい子なんですから。

この作業は大変でしたが、異議の結果、7級4号に変更となりました。

示談交渉では、いろいろな争点が妥協点に達せず、もう、終わりたいというご両親をなんとか説得して、訴訟に及びました。

結果、大幅UPの和解案を得ることができました。「娘の事などどうせ他人は分かってもらえない。お金の問題では無く、もう疲れた。賠償問題から早く解放されたい」とおっしゃっていたご両親も、裁判所からの一定の理解を得たことで、気持ちが楽になったと訴訟を強く勧めた当職に感謝の言葉がありました。

中級レベル(9級から5級)の高次脳機能問題は、本当に難しい。今回、事前に学校や病院での打ち合わせで、各機関、きっちりと足跡を残すように準備したことは有意義でした。早めの委任が功を奏しました。

高次脳機能問題は、お金では解決できない大きな傷痕を家族に残します。それでも、お金でしかお助けできない弁護士の職務を少しでも果たせ、ご家族のお役に立てたことは良かったとは思います。